MASTER:鮎
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nowhere

SOMEDAY
Someday, he's gonna be a hero of justice.

「なぁ、雷震子。」
「何だよ、発兄。」

封神計画が終わってから、数年の月日が経っていた。
仙界大戦以来その数を減らした仙道はほとんどが仙人界や神界へとその住居を移し、周の治める大陸は長い乱世に終止符を打ち、新しい時代を迎え ていた。
雷震子が人間界にやってきたのは、いよいよ仙人界と人間界の行き来が不可能に近くなる事を告げるため、そして、雷震子にとって最後の別れを周 王家に告げるためであった。
武王は雷震子の来訪を心から喜び、彼のことをよく知る人たちもゆっくりしていけ、と歓迎した。
久々に見た武王のそばには王妃として羌族の統領、呂邑姜が座っており、その腹は幾ばくか膨れていた。
あと数ヶ月もすれば子供が生まれるのだと聞いて、雷震子は自分のことのように喜んだ。
けれど、初めての甥の顔は見る事は恐らくできない。
滞在期間は限られており、そして再訪することも今後は難しくなるだろう。
雷震子の言葉に、皆は大変残念がったが、それも仕方のないことだった。

人と仙道は生きていく時間が違う。
そして、今後は生きていく世界も違う。
わかってはいても、訪れた別れはやはりつらい。

「お前、仙人界行ったら、これからどうするんだ?」
「ん、…崑崙と金鰲の仙道の中がまだ悪いから、しばらくはその調停の仕事らしいぜ。後は…蓬莱島の開拓とか…」
指折って数えてみると、仕事はかなり多い。
滞在期間を延ばすのは不可能に近いだろう。
それを見た武王は帰る前に父の墓参りに行かないか、と誘った。

「墓参り、久しぶりだなぁ。」
「本来なら兄弟水入らず、と言うべきところでしょうが」
「馬鹿野郎、兄弟どれだけいると思ってるんだよ。」
身重の邑姜は留守番させ、武王と周公旦、雷震子の三人は父・姫昌の眠る墓へやってきた。
西岐城から少し離れたところにたてられている墓は、誰か世話人がいるのか、いつ行っても供え物は新しく、墓前はきれいに清掃されている。
「伯邑考兄ちゃんも、ここにいるんだよな。」
「ああ。」
城から持ってきた供え物を置くと、3人は思い思いに墓前に近況を報告し、祈った。
子供が無事生まれますように。
武王の傷が早くよくなりますように。
周がこの先平和でありますように。
黙祷を捧げると、答えるかのように優しい風が吹く。
きっと、2人が歓迎してくれているのだ、と雷震子は思った。

「なぁ、雷震子。」
「何だよ、発兄。」
「…この戦いで、何人の兄弟が死んだと思う?」
武王が不意に言葉を投げかけた。
雷震子には99人の兄がいたが、その全ての兄の顔や名前を知っているわけではなかった。
幼い頃に姫昌に拾われて、あまり時間を置かずして仙界に引き取られたので、会っていても覚えている顔は少なく、下山して後に顔を合わせた者も 少ない。
「…8人だ。」
雷震子の答えははじめから期待してなかったのだろう、数拍おいて武王が答える。
「年齢や能力の問題で、出陣したのは旦含めて全部で23人。そのうち、8人が戦死した。」
ほぼ3人に一人だった。
雷震子は驚いたが、隣の周公旦の表情は変わらない。
「仙道に頼らず先走って仙道に殺された者もいれば、一騎打ちを仕掛けて死んだ者もいます。それぞれが自らの判断で動き、結果戦死したのですか ら、雷震子が気に病むことはないですよ。」
周公旦はそういうと、雷震子の頭をなでる。
雷震子はもう子供じゃない、とその手を振り払うが、重い事実を知って、その表情が暗く沈む。
「知らなかった、じゃすまされねぇよな。」
「いや、教えなかった俺が悪い。…言ったらお前が気に病むだろうと思って、今まで黙っていたんだ。もうこれで最後らしいし、弟達の手前、伝え ておかなきゃな、って思ったまでだ。」
悪かった、と武王が謝る。
頭を下げられて、雷震子は驚いて顔を上げてくれ、とせがんだ。
「やめてくれよ、…教えてくれて、ありがとな。」
仙道も多大な犠牲を払ったが、将も民も多大な犠牲を払ったが、姫家もまた、多大な犠牲を払ったのだ。
姫昌を取り戻す為伯邑考が身を挺し、新たな王と国のため、8人の勇士が命を投げ出した。
武王の肩にかかる責任は大きい。

「俺はさ、この戦が終わって、お前が生きててくれたことにすごく安心したんだ。」
帰り道、武王が唐突に話し出した。
「俺だって人の好みがあるし、98人いる弟のうち、こいつが苦手だとか、こいつはいけ好かないとか、まぁそういうのがあるわけだ。それでもど の弟もそれなりに大事だったし、死んだと聞いたらやっぱり悲しかったぜ。でもな、たくさんいる弟達の中で、お前だけは、絶対に死んでほしくな いと思ってたんだ。」
でも、仙道だから必然的に妖怪仙人たちの前に出て、誰よりも厳しい戦いを強いられる。
「正直哪吒や楊戩なんかのレベルじゃねぇ、って思ってたから、いつかは天化みたいに無茶して、大怪我したり、封神されちまったりしやしない かって、お前を送り出すたびに恐かったんだ。」
「でもよぉ、オレ様は仙界大戦にも参戦できなかったし、牧野の戦いでも、紂王に傷ひとつ残せなかった。最後の戦いにだってよ、戦力になら ねぇって言われて、でも実際その通りで、結局無茶する以前の問題だったような気がするぜ。」
気持ちを吐露して、雷震子はため息をついた。
あの変人師匠のせいで、父の死に目にも会えなかったし、長年住んでいた崑崙を守るための戦いにも参加できなかった。
自分の理想とした正義のヒーローからは、程遠く離れた結果であるとしか、いいようがない。
「それだけどさ、お前の師匠、わざとお前を戦いから遠ざけてたんじゃないか、って、今じゃ思うんだ。」
「へ?」
「魔家四将の時はさ、戦力が足りなかったから仕方なくお前さんを行かせたとしてさ。後の戦いは、崇黒虎のおかげで比較的楽に進軍できたし、仙 道にとって一番大きな戦いだった仙界大戦の時には、お前は参戦せずにすんだ。牧野の時は相手が悪かったし、あの紂王を説得できたのは、やっぱ り殷の民だった天化や殷の兵士たちしかいなかったと思うんだ。」
「貴方以外の道士はほとんどが十二仙の弟子だったと聞いています。十二仙は崑崙の幹部で、封神計画に賛同して積極的に計画に関わった為、その 弟子達も関わらざるを得なかった。李靖殿は十二仙の弟子ではないですが、3人の子が前線で働いているのに、父たる自分が奥に引っ込んでいては 示しがつかないのもあったでしょう。でも雷震子、貴方の師匠は崑崙幹部ではなかった。」
「お前の師匠はさ、その立場を利用して、できるだけお前が危ない所に行かないように守ってくれてたんじゃないだろうかって、俺も旦も思ってた んだ。」
それは、雷震子にとっては考えも付かないことだった。
弟子のことを実験体としか思わず、勝手に人の羽を増やしたり、人の気持ちも考えてくれなかったり、彼にとってはそんな師匠だった。
でも考えてみれば、幼い頃はスパルタ的な指導で体を鍛えさせ、背中の天騒翼は改造されるたびに強くなっていった。
楊戩のような天賦の才があったわけではない。
哪吒のようなロボットでもなければ、天化のように戦いの中に生を見出すことも出来そうになかった。
そんな自分がこれまでやってこれたのは、身の丈にあった力で、身の丈にあった戦いで戦ってきたからではないのか。
「帰ったら確かめてごらんよ。本当の所はどうだったのかってさ。」
「あのバカ師匠が素直に教えてくれるとは思えねぇよ。」


数日後、土産を背中いっぱいに持たされた雷震子は、他の兄弟や昔からの顔なじみたちに見送られ、城を去った。
どうか体に気をつけて、元気な子供を授かることを祈っている、と雷震子が挨拶すると、邑姜が笑って抱きしめた。
「どうか貴方も、そして仙人界の人たちも元気で。」

母の温もりとはあそこまで温かく、優しいものなのか、と雷震子は驚いた。
そして、自分の師匠は…。
(抱きしめてもらったことなんてない。それでも、本当に発兄や旦兄の言うとおりだったなら…)
それは邑姜の温もりと同じくらい、温かなものだったのだろう。
ただ、自分が感じなかっただけで。

(本当に、そうだったのか?)
普段の師匠の行動からは想像がつかない。
ああ、だけど。
(…もし、そうだったのなら。)
次に力が必要とされたそのときには、胸張って送り出してもらえるように。
力をつけよう、今度こそ後悔しないように。


雷震子はフジリューに忘れられてるんじゃないかというくらい、見せ場のないキャラクターだったと思うのは私だけじゃないはず。 木吒や金吒みたいに明らかなサブキャラというわけでもなく、序盤では結構活躍してたのに中盤以降の失速がすさまじい。
何でだろう、って考えて、原作でも活躍のば減ってたのかなって考えて、読み直して、考えて、しているうちに考えがまとまりました。

題名はアニメの雷震子のキャラソンのタイトルより、副題は歌詞の一部を英語に直したもの。松本さん歌うめぇ…。
武王が23人出陣、8人死亡といっていますが、数字は安能版を参照にしています。(か、数えミスあるかも…)

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