MASTER:鮎
Twitterにだいたい毎日います。

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nowhere

終天を征く旅人
さぁ 立ち上がれよ 破壊生む心よ 愛砕き 欲を滅せよ
 

「鬼?」
 楊戩の報告に、周軍の最高責任者は首をかしげた。
「何かの見間違いではないのか。戦死者の懐を漁る野盗の話なら、もう耳が腐るほど聞いたが」
「いえ、そういった類のものではないようです」
 五関と呼ばれる、周の都・西岐と殷の都・朝歌を結ぶ五つの関所が並ぶ難所を、周軍は破竹の勢いで進軍していた。妲己や金鰲の息がかかった妖 怪仙人、忠誠心を履き違えて暴君にただ従うだけの将軍たちを、文王は軍師とそのバックにつく崑崙山の道士たち、そして軍師が統領として率いる 羌族ら異民族の力も借りて次々と打ち倒し、今やその名声は大陸全土に響き渡っている。次の王は文王がふさわしいとして地方の諸侯らも兵を挙げ た。汜水関を守っていた殷の王太子は既に露と消え、殷は最早風前の灯では、との噂も飛び交っている。
 しかし、三つ目の関所・穿雲関を撃破したその日の夕方、楊戩は憂い顔の文王に呼び出され、その足で軍師のいる天幕へ足を運ぶことになった。 王からあまりよくない噂を聞いたからである。
「殷の敗残兵や逃亡兵が、戦場から少し離れた場所で殺されているそうです。調べたところ、金目の物は奪われておらず、むしろ『殺す』ことが目 的になっているようにも見えると」
 殷の敗北は近いと噂され、戦場では殷の兵士たちの裏切りや逃亡が絶え間なく起きている。先鋒として進軍してきた部隊がそのままそっくり裏 切って周軍に寝返るということもあった。だがそれならまだいい方で、悲観した敗残兵が武器を持ったまま、身を野盗に落として戦死者や近隣の村 から略奪する等という事態も度々発生していた。だが、どうやら今回の件はそういったものではないらしい。
「先日の界牌関での戦いの後、南宮适くんが逃亡兵へ周軍への投降を呼びかけに、彼らが逃げた先と思われる林へ向かったところ、人間の兵士に紛 れて妖怪仙人の原型と思しき、絶命寸前の金色の亀がいたそうです」
「初耳だな。そういう不審なことがあればまず私の耳に入れてほしかった」
「彼らはまだ僕たちのことをよく思っていないんですよ。何せ本来の彼らの仕事を、僕たち崑崙の道士がやってしまっているのですから」
 楊戩は少し笑って、話を本題に戻す。南宮适らの話によれば、逃亡兵の多くは武器を握ったまま、何者かに一刀両断された形で絶命しており、通 常野盗ならばはぎ取りそうな武具や金目の物は一切奪われていなかったとのこと。亀の妖怪仙人については詳しいことはわからなかったが、周辺の 木々が折れている等の激しい戦いの跡はなく、目立つ一筋の刀傷が印象に残った、ということだった。
「ふむ、確かに野盗ではなさそうだな。同志討ちというわけでもないだろう。妲己の仕業か、野良の妖怪か……」
「他の将軍にも話を聞いたところ、師叔が崑崙山へ出かけて不在だった時にも、同様に不可思議な死体が汜水関の郊外で散発していたようです。詳 細は今武吉くんや他の道士に聞いてもらっていますが」
「なるほど。……して、楊戩。お前はどのようにしたい? 今日の戦いも、不参加を申し出たのはこの件を調査する為だったのだろう」
 軍師は一瞬思案して、はっと顔をあげて聞いた。合流した道士たちが人間界での戦いに慣れ始めた為、楊戩が今回は彼らに任せたいと言って、野 暮用で半日ほど暇が欲しいと言ったのを思い出したのだった。開戦前の作戦会議中で、人間の将軍もいる中での発言だったので、楊戩も「何を」調 べに行くかは詳しく言えなかったのだが、軍師は右腕を信用して快く許可をくれたのだ。その結果を、彼に伝える。
「亀の妖怪仙人の傷跡は、間違いなく宝貝によるものでした。妲己の手下が敗残兵を処分している可能性があります。太刀筋も見事なものでした。 恐らくは妲己直属や金鰲の上位の仙道、それに近い実力を持っているかと思われます。界牌関の件は恐らく一人でしょうが、見張りの名目で置いて いるなら複数人が手配されていてもおかしくはありません」
 突然の奇襲や文王の暗殺を狙っている可能性もある。ならばなるべく迅速にその正体を突き止め、排除する必要がある、と楊戩は語気を強めた。
「そこでこちらも僕の他少数の道士で今夜調査に出向きたいのですが」
「わかった、許可しよう。人選はお前に任せた」
 軍師は大きくうなずいて、頼んだぞと言う。直後、かちっと時計の針が動く音がして、軍議の時間だと知らせる。
 
 軍師が「人としての仕事」をこなしている間、「仙道としての仕事」をこなすのは右腕である楊戩の役目だ。楊戩はそのことを誇らしく思ってい るし、その役目を与えた崑崙の教主の期待に応えねばと強く思っている。
 崑崙山は今回の革命において、人間界が平和であることと、金鰲が背後についている殷に代わって、自分たちが支援する西岐、もとい周が天下を 取ることを望んでいた。その為に道士ながら人らしく策謀を得意とする太公望を西岐の軍師となるよう下山させ、また仙人の位を約束されながら未 だ道士として修行を積む楊戩を彼の右腕兼崑崙の仙道のリーダー役として派遣した。妲己、及び金鰲がバックについている以上、殷を打ち負かすこ とは並大抵なことではない。太公望もそれは十分に理解しており、弱い人間たちを守るため、なるべく崑崙の道士たちだけで戦いを終えられるよう 戦争を進めてきた。もちろんそれだけでは崑崙が殷を滅ぼしたことになってしまうので、あくまで太公望は周の軍師として、表向きは兵士を動か し、崑崙の道士たちの活躍をカモフラージュしている。そのため、太公望は人間界ではかつての人としての名を名乗り、道士である自分と人として の自分を完全に棲み分けていた。
「ではいってくる。吉報を待っているぞ、楊戩」
「はい、師叔……いえ、『子牙』殿」



<本文10P中冒頭3P抜粋>


青峯山アンソロから半年後、自重せずに性癖100%ぶっ込んだやべぇ奴。いつものほんわかしたのが好きな人には全くお勧めできません。 正直提出した時に「これはちょっとやりすぎです」って怒られてもしょうがないと思ってた。(一応「女媧様の失敗した世界」という設定はあ りですか?とお聞きして快諾してもらったので半分くらい大丈夫かなとは思ってたけど)

ということで、テーマは失敗世界です。殺劫×失敗世界、同じ性癖の方がいれば、アンソロの詳細はア ンソロ告知アカウント(ツイッター)にありますのでどうぞよろしく。ファンアートも描いてもらって感無量ですたい…

(そうそう、pixivで師叔のタグつけてないのは、(以下若干のネタばれ、反転でどうぞ) 彼が「中身」を伴わない「ガワ」だからです。もっとわかりやすく言うと、あの中に本編主人公たる、王奕や伏羲の片割れであり太公望であった存在は入ってない。だからあえて一人称も口調も変えてる)

ツイッター見てた人は勘づいたかもしれませんが、タイトルとこのサイトのみ掲載している副題、あと本文ラスト(サンプル未掲載) のセリフの元ネタは例のカービィのゲームの某ラスボスBGMです。作業用BGMでした。これかけてからスイスイ書けるのなん の…Switch持ってないんですが、夢の泉からのファンなのでスターアライズ死ぬまでにやりたいですね…(未プレイなのにサントラを買 う馬鹿)

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