MASTER:鮎
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Template @ 空蝉

nowhere

夢操
夢を、心を操って、導の指し示すままに

小さい時から繰り返し見る夢がある。


夢の内容はバラバラなようで、実は同じ内容だ。印象的なのは赤。空が赤かったり、雨が赤かったりするけれど、一番きついのは血の赤。夢には必 ず親父が出てきて、それで絶対に俺っちか親父か、どちらかが死ぬ。酷い時には二人とも死んじまう。聞太師が親父に宝貝を使ったり、俺っちが蜂 に追われて刺されたり、俺っちと親父が敵味方に分かれて戦ったり、死因はいろいろだけど、絶対にどちらかが死ぬ夢は、見ていて気分のいいもん じゃない。
夜中にはっと目が覚めて、ぐずぐずと泣いて親父たちを困らせることも多かった。おかげで兄貴は早くに自分の部屋をもらえたのに、俺っちは随分 と長くかかっちまった。
最初の夜はとても怖くて、布団をぎゅっと握りしめながら眠った。次の日の夜も怖くて、布団を頭からかぶって眠った。3日目は、どうだったか な、でも夢を見ない日が続いたから、そのうちに安心して眠れるようになった。
そうやって、もうあんな夢におびえることもなくなったある日、唐突にまた夢を見た。

俺っちが、親父を越える夢を。



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その日、俺は殷の王都・朝歌郊外の上空にいた。


基本的に仙人界で洞府を構える者が人間界に降りることはめったにない。崑崙山幹部たる十二仙ならなおさらだ。そんな俺がどうして黄巾力士に 乗って、ふらふらと降りて来たかと言えば、元始天尊様からの命令だったからだ。
「して道徳よ。お主はいつ、次の弟子を取るつもりかのう」
「……」
正直、なるべくなら次の弟子はあまり取りたくなかった。というのも、つい先日まで育てていた弟子とはあまり折り合いが良くなく、俺自身が疲れ てしまったのだ。仙人は弟子をとって育てる決まりではあるけれど、常に弟子を持っていなければならない、ということはない。特に大きな理由が なければ数十年くらい一人身を楽しみたい気分だった。なのに、この前の十二仙会議で俺は元始天尊様直々に、弟子をとれと命じられた。
「封神計画の話はこの前の会議でしたであろう?お主にも戦力となる弟子を育ててもらわねばならんのじゃ」
封神計画。それは長年人間界を苦しめる金鰲島の仙女や、その手下どもの魂魄を封じ込めるための計画だと聞いている。俺にはこの計画の重要性が まるで理解できないのだけれど、元始天尊様曰く仙人界の命運を握る計画らしく、太乙はその計画用の新しい宝貝の開発でここしばらくずっと顔を 見ていないし、道行や文殊は新しい弟子を迎えて育成に忙しくしているという。
けれど全ての十二仙が弟子をとっているわけではなく、広成子や赤精子なんかは割とのんきにいつもの喧嘩をしているし、別に俺が急いで弟子を取 る必要はないように思えるのだ。なのに、元始天尊様はここ数週間、わざわざ青峯山にまで白鶴を使いにやらせるほどにせっついてくる。
「元始天尊様。私でないとダメな理由があるのでしょうか?正直、前の弟子の後始末がまだ残っておりますので……」
「ならぬ。お主でないとダメなのだ!あれは逸材なのでのう」
その逸材、と示された内容に、俺はただただ嘆息する。この逸材、驚くほどに例外だらけなのだ。

俺は適当な森に黄巾力士を隠し、身の回りや持ち物の最終チェックをした。服装よし、荷物よし、念の為の宝貝よし。珍しく用心しているのは、崑 崙の仙人が朝歌をうろうろしているとばれないようにするためだ。だから服装はいつものジャージじゃないし、荷物も旅を生業にしている人間が 持っていそうなものばかりだ。万が一何かがあった時の為に、宝貝と薬丹は持っているけれど、それ以外に俺が仙人であると証明するものはない。 それほどまでにある意味、用心しなければならない弟子候補だった。
元始天尊様に提示されたのは王都・朝歌にすむ黄家の次男坊だった。名前を確か天化という。何がどう例外かと言うと、まず彼が殷の中枢部の人間 の一族の者だ、というところだ。
殷には数百年前から聞仲という、金剛出身の道士が太師として居ついていて、彼の采配もあって、殷王家や中枢部に近い所にいる仙人骨の持ち主 は、皆金鰲島がスカウトすることになっている。金鰲島は妖怪仙人が多い仙人界ではあるけれど、人間出身の仙人も少なからずいる。聞仲を慕う妖 怪仙人も多く、妖怪仙人が人間の道士を育てることもよくあることらしい。崑崙があの領域に介入したことはここしばらく全くなく、地方役人の子 息や、支配層に全く関係のない人間の子をずっとスカウトしてきた。別に金鰲や聞仲個人とそういう制約を交わしたわけではないが、既に暗黙の了 解として数百年続いていることを、今敢えて破る意味がわからない。
もう一つの例外が、弟子の年齢だった。俺は仙人の中では、どちらかと言わなくても肉体派。術系の道士を育てるなら早くにスカウトする方が伸び がいいのだけれど、俺のような肉体派はある程度弟子の体が成長してからスカウトし、育て上げることが多い。それなのに、元始天尊様が示してき たのはこの世に生を受けてまだ3年しかたっていない幼子だった。3歳だぞ、3歳。長く生きてはきたけれど、そんな子供を仙人界に上がってから 育てたどころか、見た覚えもない。3歳ってあれか、夜泣きはもう終わってるよな?言葉は話せるのか?流石に二足歩行はできるよな?食べ物はど うすればいい?俺の中では疑問符ばかりが浮かぶ程度に未知数の存在だ。そんな子供を弟子にとれという。
これが母親を亡くして命の危機に瀕している孤児とかなら話は別だ。でも相手は最近王の覚えもめでたく、武成王という武人の最高職に上り詰めた 実力者の息子だぞ?母親も健在、親戚も多数、なんでそんな恵まれた環境から、赤子一人抱いたことすらない男の所へ連れていかなきゃならないん だ。流石の俺でも驚く。
俺は極めて常識的で理解可能な理由で断ろうとしたのだけれど、元始天尊様が折れることは全くなく、他の十二仙からもせっつかれて、結局ここま で来てしまった。ああもう、どうにでもなれ!という気持ちにはやっぱりなれず、どうにか理由を探して弟子を取るのを断りたいなぁと思いなが ら、俺は朝歌の門をくぐった。
 第三十代皇帝の紂王は名君として名高い。若輩ながらその手腕は老獪な先王の家臣をもうならせ、人を見る目もあるおかげで彼の周りには数多く の優秀な人材が集まっている。俺が今から行こうとしている武成王もその一人だ。  黄家はもともと古くから殷王家に忠誠を誓い、武門の家としてその手足になってきた。先々代の黄滾は五関と総称される、殷の西部の重要な関所 の一つを任されるなど、王家からの信任は厚い。けれど五関の防衛はいわば地方領官の職でしかなく、王に拝謁できるほどの身分ではない。基本的 に王に近い位置であればある程、家柄が重視され、新しい風が入り込む隙はなかなかない。ところがその点、黄飛虎は破天荒で、型破りで、そして 運が良かった。噂では長男でありながら全国放浪の修行の旅を敢行し、王都に戻ったかと思いきや太師聞仲を殴りつける事件を起こすなど、それだ けを聞けば問題児の塊のような男だ。だが、時代が時代なら問題ありすぎる人物として敬遠されるだろうに、それが逆に聞仲の興味を引き、紂王の 目に留まらせ、今や武門最高職の武成王の地位にいる。  武成王黄飛虎について市場や周辺の店で話を聞くと、民衆から返ってくるのは称賛の言葉ばかりだ。現場主義なのだろう、何かが起これば自ら足 を向けることを拒まないし、正しいと思ったことはまっすぐ正しいと目上の相手にもはっきり物申す。自分が間違った時には恥じ入って隠すことな く公にし、頭を下げることも厭わない。部下からの尊敬も厚く、いつの頃からかの付き合いかはわからないが、四大金剛と呼ばれる腹心の四人の部 下とは義兄弟の関係を誓っているほど。更に愛妻家で子煩悩だというところもどうやら評価を爆上げしている一因のようで、それを聞いた俺はます ます途方に暮れた。



(冒頭部分サンプル)

pixivではずっとサンプル文掲載してたけど、こっちにはのせてなかったことに今更気付く。

今読むと書きたいことはわからなくもないが、まだ稚拙だな・・・というか、そもそも文庫の装丁組むの失敗してる感が凄い・・・

ずっとweb活動なので、いざ「本」にするとなるとなかなか難しいですね・・・私2段組好きじゃなくて、おまけに自分の文章もちょっと2段組向かないなぁ・・・って凄く悩む・・・

どうでもいいことだけれど、執筆中の脳内がこんな感じだったって記 録を残しておきます・・・

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