MASTER:鮎
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Template @ 空蝉

nowhere

朝、大惨事、恨みは5倍返しにて。
災いという名の客は、招かずとも勝手に上がりこんでくるものである

紫陽洞の朝は早い。
洞主は日の出と共に起きる人なので、その弟子はいつもそれより早く起きて朝の準備をしなければならない。
天化はいつものように朝餉の準備をしようと、居間の扉を開けた。

「やぁ、おはよう。」

天化は思わず自室に戻ってしまおうかと思った。
なぜこの人はここにいて、悠然と茶を飲んでいるのか。

「・・・おはよーございますさ、雲中子サマ。」

台詞が棒読みになるのは仕方がない。
とりあえず挨拶を返せただけでも上等だ。

「君達は本当に夜も朝も早いみたいだねぇ。3時過ぎにこっちに来たんだけど、2人とも夢の中みたいだったから勝手に上がらせてもらったよ。」

そんな時間に何しに来たんさ!
天化は思わず心の中で突っ込んだ。
そしてさっと居間の中を見渡す。
物の配置はおかしくないだろうか?
なにか変なにおいがしたりしないだろうか?
何より、自分の体に異変は起きてないだろうか?

「あ、心配しなくても、お茶を沸かしただけだよ」

雲中子が一言入れるが、そんな言葉は信用ならない。
それは数年のここの生活で解っている。

「ただ、ちょっとね。」
「ちょっと?」

雲中子がふと窓のほうに目をやる。
修行日和の朝の光がわずかに曇っていた。

「ふむ、雲行きが怪しくなってきたな。そろそろ私はお暇させてもらうよ。」

え、と天化が戸惑うのも気にせず、雲中子はささっと居間から出て行く。
入れ替わりで道徳が入ってきた。

「・・・天化、今ものすごく嫌なものを見た気がするんだが。」
「気のせいだって信じたほうが楽さ、コーチ。」

窓の外を見ると東のほうから不自然なまでのスピードで黒い雲が近づいてくる。
天化はものすごく嫌な予感がしたが、きっと気のせいだと思い、窓に背を向けた。

その瞬間、稲妻が駆け巡った。





洞府の中を容赦なく駆け巡った嵐と電流は中にいた2人をこれでもかと痛めつけ、居間は見るも無残なまでに半壊した。
穴の開いた天井からは黒い8枚翼を生やした蝙蝠人間が、何かを叫びながら飛び去っていくのが見えた。





次の日の朝。
前の日は半壊した居間を修復するのに1日使ってしまい、修行は全くできなかった。
今日も昨日と同じくいい朝で、天化は今日はちゃんと修行をしようと思いつつ居間の扉を開けた。


「や、やぁ、天化君、おはよう。」

また自室に引き返したくなったが、無視してもどうしようもない。

「・・・おはよーございますさ、太乙真人サマ。」

昨日の台詞よりも更に棒読みになっている。
今日はむしろ、驚いているというより、目が据わっている。

「本日は朝から何の用事さ?」
「え、えっと?いや、ちょっと、その・・・ね?」

動揺して視線が泳いでいる太乙真人。
視線の先が窓のほうを向いた瞬間、天化にも嫌な予感というか、隠す気のない殺気というものがひしひしと感じられた。
太乙真人はいち早く居間の扉を抜け、既に洞府を去ろうとしている。
嗚呼、今日もなのかとため息をついた瞬間、紫陽洞の居間は全壊した。




「師父、俺っち久々に堪忍袋の緒が切れた音がしたさ。」
金磚の嵐で全壊した居間の瓦礫から天化が顔を出して言う。
「俺にもその切れる音がはっきり聞こえたよ。」
道徳も、手に居間のドアノブだけを持ち、瓦礫の中で立ち尽くしていた。
天化は褪めた目で空を見上げた。
「行くさ?」
「行くか。」


天化が昇山してから、というより道徳が洞府を開いてから何十度目かになる、乾元山金光洞・終南山玉柱洞襲撃修行が始まった。


小説下書きファイルひっくり返したら出てきたもの。
自分が書ける非シリアスはこれくらいが限界だと思う。

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