「武吉っちゃんスカウトしようとしたんだって?」
両手足の包帯を替え終わり、何か欲しいものあるか?と聞いたところ、代わりにそんな言葉で詰め寄られてしまった。
数日前まで怪我から来る高熱で自力で動けなかった弟子が、ようやく寝台の上限定だが起き上がれるようになった。痛みによる不定期な覚醒と昏睡も薬丹が聞いたおかげか鳴りを
潜め、食事時とその前後くらいは起きていられるようになった。それに伴い、軽口なども叩けるようになってきて、ようやく峠を越えたな、と安心
した矢先の不意打ちだった。
「…誰から聞いたんだ?」
「スースから。自分の弟子が必死に戦っている横で新しい弟子のスカウトか、って呆れてたさ。」
「うっ…で、でも彼の才能は目を見張るものがあったからつい…」
太公望め余計なことを…と思いながら言い訳してみる。武吉君に才能があることは間違いない。天然道士として骨や筋肉は発達し始めているが、今
のうちに仙人界に入ればまだ道士として修業を積み、体術方面に秀でた仙人になることはできるだろう。仙人骨を持つ人間のスカウトは仙人界の義
務でもある…と頭の中でいろいろな言葉は浮かぶのだが、天化の責める視線に見事に打ち砕かれていった。
「…でも結局笑顔で断られてしまったよ。自分はもう太公望の弟子だからってね。まだ仙人になっていない太公望が予約済みとは、やっぱり凄く才
能のある子なんだな。」
「違うさ、武吉っちゃんはスースのことすっげぇ尊敬してて、むしろ武吉っちゃんの方が押し掛け弟子やってるみたいなもんさ。」
「そうなのか?」
「スースの行くところ武吉っちゃんあり、ってくらい慕ってるさ。元々庶民の出だから学がない、って言ってたけど、すっげぇ勉強熱心だし…そも
そも武人の家じゃないから、どっちかといえば剣より斧や鍬持ってる方が武吉っちゃんらしいさ。」
天化にしては珍しい言い方だった。今まであまり家柄にこだわることなどなかった(天化自身はあの「黄飛虎」の息子であることにこだわりはあっ
たが、名門黄家というこだわりは一切聞いたことがない)その天化自身が「武人の家じゃない」なんてセリフを言うのか、と。だがすぐにそれが本
心ではないゆえに出た言葉だと気がつく。
「なんだ、妬いてるのか?」
「ち、違うさ!」
責めるような視線が途端に図星をさされて泳ぎ始める。会話の主導権を握り返してほっとはしたが、同時に彼を下山させる数年前から懸念していた
「あること」を思い出す。
「悪かった悪かった。いや、天化は大家族の中で育ったから、やっぱり寂しかったりしたんじゃないかなと思ってさ。いい弟弟子になりそうな子だ
なぁ、と思っただけなんだよ。そうかぁ、まさか嫉妬されるとは思わなかったなぁ。」
少し大袈裟なくらいに行ってみると、予想通り「だから妬いてるんじゃないって言ってるさ」なんて反論してくる。可愛いな、と思いつつ、更にと
どめをさすように、頭をなでたりしてやると、動けない代わりに「やめるさ!」と咎めてキッと睨んできた。
(そう、それでいい。お前にとっての「一番」は父親や家族であって、俺じゃないだろう?)
こうやって煽ってやれば、久しぶりに思いだした俺への少々深すぎる思慕も奥にしまいこんでくれるだろう。
そしていずれ怪我が治って人間界に降りれば、大好きな父親や家族と共に過ごすことでそれも思い出すこともなく、そのうちに青年期特有の気の迷
いだったの気付いて、笑って消化されるはずだ。
俺にとっての一番は天化だけれど、その「一番」の意味はきっと天化の期待しているものと同じじゃないし、それ故に思いに答えることもできな
い。そして俺の一番であるが故に彼を傷つけるわけにはいかないのだ。
「ほら、薬飲んだらさっさと寝る!」早く治して人間界に戻りたいんだろう?」
布団をかけ直してやると、まださっきの件で拗ねているのか、天化は鋭く睨みつけてきた。その視線の中に縋るような感情が混ざっているようにも
見えたが、きっとそれは俺が気にしすぎていだけだ、と思うことにした。
構想はあったけどずっと文字に起こせなかった道天をようやく書く準備というかあれができたって感じ。
他の方が書いてるラブラブモードや両片思いモードもすっごい好物なのだけれど、あえて自分で書くとしたら完全片思いモード。天化一方的。
コーチ知ってて答えない。これほどひどい話があっただろうか…(いやないと言えるほど私自信ない)
そのうち続きとか何か書きたい…このままだとあんまりなので。