MASTER:鮎
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泰山府君、普化天尊と共に菓子神の集いに誘われる事
性癖と推し菓子の詰め合わせセット


「なんだこれは」
 聞仲が怪訝な顔で封筒の中身を読み始めるのを、手伝いという名の様子見に来た黄飛虎は内心ドキドキしながら観察していた。

 神界はただいま大変忙しい時期のピークがようやく過ぎた、というタイミングにあった。別に人間界で戦乱があったとか、災害がひっきりなしに起こった、というわけではない。ただ、人間たちの活動する範囲が広がったことで、神界の神々がカバーする範囲が増えた、端的に言えばそういうことになるだろう。初め、神々が補佐するのは大陸のごく一部の地域の人間たちだけだったのに、気が付けば大陸全土、果ては海の向こうまでその行動範囲は広がった。自分たちの知らない、でも自分たちと同じような立場で人間を手助けする異国の「神」にも多く出会うことになり、神界はにわかに騒がしく、いや、賑やかになったといっていいだろう。交流も盛んになり、神々の中にはその異国へ「修行」に出ていく者も多くいた。離れた土地で信者を獲得し、神としての力を更に強化してきた彼らを見て、それに続かんとする者も多く、そのせいで神界の上層部、そして神界を統括する仙人界は多忙に多忙を極めていたのが、この百数年だった。何度も何度もその波が訪れて、ようやく落ち着いたのは人間たちの行動範囲が地球全土に広がり、限界を迎えた最近のこと。これでようやく一息がつける、と上層部が判断したところで、蓬莱山の教主こと楊戩が長期間寝込んでしまったのがきっかけだった。
 過労、と診断された教主はしばらくその業務を張奎と燃燈道人に任せることとなったが、楊戩は二人に自分と同様に過労で倒れることがないよう頼むことに加えて、同じように過労気味になっている神仙がいないか確認してほしい、と要請した。張奎も燃燈も、もともと過労気味なところがあったせいか耐性があり、そのせいでチェックが当初大変厳しいものになってしまったものの、それでどうにか「休みを取るべき神仙リスト」ができあがったとき、その筆頭に雷神の長であり、神界でも実力ナンバーワンの聞仲の名前が挙がっていた。
「ふん、この程度で過労など、軟弱ものとしか言い様がないのではないか」
 だが、張奎の元上司でもあった聞仲の辞書に過労という文字はなかった。筆頭に挙げられた彼がそんな風に突っぱねるものだから、下位の神々、特に聞仲の部下に当たる雷部に所属する神々はほとんど休暇が取れない。窮状を訴えられた仙人界は今まであの手この手で聞仲を説得しようとしたものの、全てが却下されて打つ手を失っていた。そこへ知恵を出したのが、気が向いたときにしか仕事をしようとしない瘟部の筆頭にして、最近は趣味に傾きすぎて武財神(商売の神)として名を馳せている趙公明だった。
「そういう時はだね、趣向を変えるものさ。僕だって病をもたらす神、なんて言われて気分がいいわけがなかった。だから僕の廟をとびっきりゴージャスにしてくれれば病を流行らせないようにしようって人間たちに約束をした。麗しき戦いを見せた戦士には一族の繁栄を約束した! 今や、僕の廟は気高きエインヘリャル(死せる勇士たちの魂)に囲まれて、日の出ている内は熱き魂の戦いを、日が沈んだ後は誉れをたたえ合う宴を開催する、まさに理想郷とも言うべき場所になった! だから聞仲君にも、怖い怖い雷神の側面ではない別の顔を与えて、それで息抜きさせるべきじゃないのかな?!」
 趙公明の意見は参考にならない、と当初は突っぱねられたものの、手を打ち尽くした仙人界に最早頼る術は他になく、趙公明の奇策は聞仲の生涯の友であり、同じく過労ラインに並べられていた黄飛虎に託された。なお、今回のこの奇策は「仕事」の範疇と指定されており、彼には今回とは別に休暇が設定されていることをここに記しておく。
「世界菓子神連盟……私がいつ、そんなものに参加したというのだ」
「人間界じゃそういうことになってるらしいぜ。何でも菓子業界のギルド神に指定されてるらしいじゃねぇか」
「菓子など作ったことはない」
「あるだろ? ほら、北海遠征で兵士にいつもの食事とは別に甘い携帯食を持たせようって厨房で炊事係と色々作ってたじゃねぇか」
「寒冷地にあの食事量ではエネルギーが不足すると判断したまでだ。あれを菓子と称するのならあらゆるものが菓子になるぞ」
 こんな物にかまけている暇があれば他にするべき仕事が山のようにある、と聞仲は封筒を中身ごとゴミ箱に捨てようとした。これではいけない、と飛虎はその手を止める。
「いや、これさ、仙人界からも要請受けてんだよ。うちにゃいろんな神がいるけどよ、菓子に特化した神っていねぇじゃねぇか。そっち方面の人脈……神脈? を繋げとくのにも、この『菓子神連盟』の宴には出といた方がいいんじゃねぇかって」
「それは、張奎がそう言ったのか?」
 それならば張奎から何か連絡があるはずだが、と聞仲は机上の手紙の山を見る。既に直接の部下でなくなったとは言え、生前の聞仲の理解者の筆頭であった張奎は、仙人界で重役を任されて以降も聞仲と懇意にしていた。時折直接仕事の依頼に来ては思い出話に花を咲かせることもあり、二人の間に遠慮はない。この案に一枚かんでいるのが張奎ではなく趙公明だとしれたら間違いなく計画をポイ捨てされるので、飛虎はあとで張奎の了解を得ることを前提に是を返した。
「あっちも今結構忙しくてよ。他にも馴染みのねぇ分野から誘いの手紙が来てるのを、いろんな所に手配してるらしいんだ。あっちもてんやわんやでよぉ、気を抜いたらドミノ倒しでミスが頻発しそうだって状態らしいぜ」
「それで、お前がこの案件を持ってきた理由は?」
 お前だって十分忙しいだろう、と指摘されたが、これは想定の範囲内だ。飛虎も詳しくは知らなかった(というか、この案件を聞くまでそうなっているとは知らなかった)が、彼には彼にしかできない、適役である理由がそこにあった。
「その菓子神連盟の宴の開催都市、そこに俺の廟があるんだよ。俺の廟のゲートを使うんなら、俺が持ってこない理由がないだろ?」
 そう言って黄飛虎は封筒に同封されていた地図を広げ、街の北東にある山の麓の異国の廟を指さした。


(以上冒頭3ページくらい)




「お取り寄せグルメアンソロジー 特別好吃」に寄稿した「泰山府君、普化天尊と共に菓子神の集いに誘われる事」のサンプルです。タイトルが全然無関係のアンソロに寄稿したのと似てますが、ネタ切れで本文は完全に無関係です、時系列も違うしな…

性癖と推し菓子と京都はいいぞーーーー!の詰め合わせセット20ページ、たぶんここまでページと菓子詰め込んだ欲張りさんはきっと私だけ…たぶんみんなもっとちゃんと絞って深掘り紹介してると思います、私は性癖と数を優先しました(これでもだいぶ絞った方)

あと表紙イラストレーターさんにビビリ散らかしました、あの、私世代だったんですよ…凄い好きだったんです、アンソロのギャグ話…

アンソロの詳細につきましてはアンソロのTwitterアカウントを参照ください。

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