MASTER:鮎
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nowhere

青峰山の師弟が幽霊退治に取り掛かる事
それはとある廃墟となった洞府の話


「出るらしいんさ」
 爛々と目を輝かせて話す天化に、道徳は引きつった笑みを返した。

 封神計画が始まってから数年が経とうとしていた。その前後で迎えた新しい弟子・黄天化はその血筋もあってかめきめきと実力を伸ばし、そろそろ宝貝を触らせることも検討する時期に来ていた。いずれは計画の先鋒に立つことを考えれば、宝貝の取り扱い方だけではなく、例えば仙人界の中でもある程度顔を広くさせておいた方が、人間界で互いに顔を合わせたときに協力がしやすいだろう、と洞府の外に連れ出すことも多くなっていた。幸い人見知りしない性格で、持ち前の愛嬌もあってすんなりと交流を深めることに成功した天化は、すぐにあちらこちらの洞府に緩やかな友人関係を築いた。その友人たちから聞いてきた話なんだと真剣な面持ちで切り出したのが、今まさに道徳が頭を抱えている案件である。
「幽霊退治するさ」
「幽霊、ってお前、そんなもの信じてるのか?」
「何かいるのは確実っしょ。見た人いっぱいいるさ」
 それに、仙人界には空を飛ぶ人間やしゃべる鶴もいるのだ、幽霊くらいいても不思議じゃない、と天化は言う。うまい返しが見つからなくて更に頭を抱える道徳に、天化はとどめの一撃を食らわせた。
「コーチが怖いってなら、俺っちが勝手に行くさ」
「ダメに決まってるだろ!」
 それに俺は幽霊なんか怖くない、と道徳が反論すると、じゃあ一緒に行くさ! と天化がにっこりと笑みを浮かべた。この子のいいところは、自分の実力を過信せず、ちゃんと師父に相談して行動を起こそうとするところだ。悪いところは、その師父が自分に大変甘く、言えばなんでも言うことを聞いてくれると思っているところだろう。問われた全てを叶えたつもりはないが、叶えられないものについてはきちんとその理由を彼が納得するまで説明するようにしていたから、今回はそれがない分、天化は言えば押し切れるだろうと踏んでいるのだ。正直、そこが何の変哲もない場所であれば、道徳だって肝試しだ! と言ってノリノリで天化と幽霊退治に出かけたと思う。だが場所が場所だけに、天化には説明しづらい理由で道徳はその案件にはあまり関わりたくなかった。

 だが、時の運は道徳の方を向いていないらしい。滅多に来客のない紫陽洞に仙人が来訪し、言うには自分たちの弟子が件の幽霊スポットへ肝試しに行ったところ、大けがをして帰ってきたという。幸い命に別状はなく、勝手な行動をした弟子に雷を落として戒めたそうだが、それはそれとして、近所の洞府にそのような危険な場所があるのはやはり不安だという。残念ながらその仙人は道徳のような武闘派でもなければ、太乙のような宝貝使いでもなく、また場所が場所だけに自分のような下級の仙人がみだりに立ち寄っていい場所ではないと判断し、それで十二仙の一人である道徳にどうにかしてもらえないか、と頼み込んできたのであった。そこまで言われては断る理由がない。お茶を出して傍で聞いていた天化はいよいよ目を輝かせ、もうすっかり行く気でいるようだった。一瞬、天化を太乙の所に預けて一人で、とも思ったが、天化が大人しく預かられるとも限らないし、太乙も押し切られて天化の味方をするとも限らない。ならばもういっそ、何事も起こらないようにように祈りながら連れて行くしかない、道徳はそう覚悟を決めるしかなかった。
「じゃあ、明日出発さね?! 武器、何持ってったらいいさ? 幽霊だからいつもの鎚じゃきっとだめさ」
「あー、鎚に札を貼っておこう。これなら実体のないものでも二回くらいは殴れるぞ」
「そろそろ本物の宝貝持たせてくれるってわけじゃねぇんさ?」
「本物を持たせるなら、こんな実戦の場じゃなくてちゃんと俺との手合わせの時にするよ。危ないからな」
「ちぇー」
 拗ねてみせるものの、持たせてくれる気はあると知って天化の口角が少し上がる。いつかはこの莫邪の宝剣を、と考えてはいるし、それはもうそう遠くない未来のことになるだろう、と道徳も思ってはいるが、まだ口には出さない。代わりに天化が修行で使い慣れた双銀鎚にそれぞれ、道徳が力を込めて書き上げた札を丁寧に貼り付けた。
「それと、一緒に行くのは構わないが、俺の言うことはちゃんと聞くこと。俺の側を離れないこと。守れないならその場で強制帰還、一週間座学漬けだからな」
「もう耳にたこができるほど聞いたさ」
「わかってるのか?」
「わかってるさ!」
 さすがにもう幼い子供ではないから、好奇心に従って暴走するようなことはないだろうけれど、大人に近付いた分道徳を出し抜こうという考えがよぎらないとも限らない。十分にそれを戒めながら、道徳は渋々自分の荷造りを始めた。


(以上冒頭2ページ+α)




青峰山師弟ウェブオンリーイベント「天高気清のスポーツ日和!」の記念アンソロに寄稿した「青峰山の師弟が幽霊退治に取り掛かること」のサンプルです。タイトルがあれですがホラーではないどころかアンデッド一つ出てきやしません。キョンシーとかでてくる話がいつか書きたい…

記念アンソロの詳細につきましてはイベント主催者様のBOOTHページを参照ください。

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