MASTER:鮎
Twitterにだいたい毎日います。

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Template @ 空蝉

nowhere

クライマックスへ至る空の下
語られざる戦いの火蓋が落ちる
 

「いったいなんだっていうんだ?!」
痛みを堪えるようにじっと目をつぶっていた雷震子は、そんな素っ頓狂な声で意識を頭に集中させた。なんだ、またあの クジラか?!と思ったがそうではない。目の前に広がった光景は、鳥。大空を覆い尽くすような、いや、空そのものかと思うような大きさの鳥が、 悠然と西岐に向かって飛んでいた。
「あれは、まさか趙公明?!なんてことだ、妲己もいるのか」
頭上で黄巾力士を操縦している仙人――確か、天化の師匠とか言ってた――が戸惑いを隠せない声を漏らす。
「すまない、予定変更だ!いったん降りるぞ!」
黄巾力士に抱えられた二人の返事を聞かないまま、頭上の仙人は高度を下げて西岐の街に降り立った。



「悪いな、本当は送り届けたかったんだけど、俺が降りてきたことがばれてしまったのかな」
ひょいひょい、とけが人を二人抱えて、道徳と名乗った仙人は軽やかに地上に着地する。
「巻き込まれるといけないから、君たちはここに隠れていなさい。もし歩けるなら、もっと安全なところに避難した方がいいんだが」
時間がないんだ、と申し訳なさそうに言って、彼は二人を民家の陰に二人を下ろす。
『ビビッ…こちら太乙真人…道徳、いるかい?』
傍の黄巾力士から何かの信号音と、人の声が聞こえた。雷震子の隣の哪吒の肩がぴくっと動く。仙人はもう一度ごめんな、と言ってひょい、と黄巾 力士の上に上がった。
「こちら道徳。悪い、俺のせいか?」
「いや、たぶん違う。趙公明は金鰲とは手を切ってるはずだし、図体はでかいけど、あの鳥はそんなに早く飛べないよ。それよりこっちと合流して くれ、太公望たちにあの趙公明と戦わせるわけにはいかない。十二仙総出で、今そちらに向かってる」
「わかった、すぐ行く」
ガチャリ、と通信が切れた音とともに、黄巾力士がブルブルと震えだす。その上で、あの仙人は「絶対にこっちに来るんじゃないぞ!!」と言っ て、そして飛び立っていった。



「おい、おまえ、大丈夫かよ?」
意識はあるようだが、腹にどでかい穴を開けて無事でいるはずはない。けれど不思議なことに、哪吒は血を流しているわけでもなく、痛みも感じて いないようだった。
「オレは、宝貝人間だから」
「パオペエ人間?なんだそりゃ」
うちの変人がやったみたいに、改造でもされてるんだろうか、と雷震子は首をひねる。とりあえずじっとしているか、と一息ついたその時、左手に びりっと電流の走る感覚があった。
「いでっ」
なんだなんだと左手を見るが、そこに異常はない。だが視界の端で一瞬走った青白いものに嫌な予感がして、今度は哪吒の腹を見る。電流の正体は そこだった。
「おい!火花散ってるぞ、いいのかこれ?!」
いいわけがなかった。何にも知らない素人であっても、これがまずい状態だとすぐにわかる。
「ちくしょう、待ってろよ、俺が助けを呼んで来てやる!!」
民家の人間はどうやら避難して、近くにはいないようだ。もし自分の小さい頃の記憶が確かなら、ここからすぐ東に行って大通りを曲がれば、兵士 たちの詰め所につくはず。少なくともそこまで行けば、この非常事態だ、兵士の一人や二人はいるはず。背中は焼けた金属板を背負っているかのよ うに痛かったが、そんなことにかまってなどいられない。雷震子はふらふらと立ちあがると、一歩、二歩と踏み出して、やがて速度を速めて走って いった。




「……」
バチバチ、と嫌な音が周りに響く。哪吒は気にもしない様子でそれを眺めていたが、不意に顔を空へ向けた。
「強い、奴がいる」
痛みを感じない彼を邪魔するものはない。宝貝がまだ使えることを確認すると、彼はふわりと浮きあがって、そして空の戦場へと向かった。





初出:Twitter。いや、外伝連載死ぬかと思った…マジで出てくると期待してなかったというか、あなた十二仙の最前線に立っ て…!!!!とか、そもそも元始天尊が招集かけてる所に道徳の黄巾力士だけ(ちゃんと)ないとか(フジリューが、それこそ10年以上前に 書いた話の細かい設定をちゃんと覚えてくれてるという嬉しさ)、あの週だけで心臓ザックザック刺されたし、今でも顔がにやける…これだけ であと30年は生きていけるわ…
ツイッターで見てたらその『元始天尊が招集かけてる所に道徳の黄巾力士だけ(ちゃんと)ない』ことに気付いてる人が少ないように見えたの で書き殴ったのがこれ。たぶんコーチファンだからみんなと見てる所違ったんだな…

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