MASTER:鮎
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Note#1-5 あのかっこいいあおり文の元ネタ

どれだよ。

諸事情による大規模改装でお借りしてきたHPのテンプレートの、左上の画像の所に何をおこうか迷った挙げ句、あのかっこいい漢文調のあおり文を漢文に直してツイッターで流れてくる発言まとめの画像みたいにしてやったらかっこいいんじゃね???という魔が差して、元ネタを調べるのに5日もかかったので、結果を残しておきます。物書き、絵描き、誰かの何かの材料になれば嬉しいです。間違ってたらツイッターかどこかで教えてください。私の漢文知識は高校の授業でストップ・以降時間経過により退化しています。

 

烈列たる驕子 、未だ仁知を知らず 願わくは言を酌み 過を補うべし 
出典:第48回「それぞれの現在・過去・未来シリーズ 3 -BATTLE COOKING!! 黄飛虎VS南宮适-」
後半部分の元ネタは白居易『策林』巻四からか? 
内容は王としての心構えを説くもので、「聖王が民の言葉を汲んで己の過ちを正すのは、それを元に政治を行い、人々を教え導くため」というもの。あおり文の内容としては、姫昌が喧嘩する二人に「願わくは~」と言っている感じかな。

此の麗人 一たび顧みれば女心を傾け 再び顧みれば邪悪を傾く
出典:第53回「老賢人に幕は降り・上」
『漢書』外戚傳・孝武李夫人伝にある李延年の歌より、「北方有佳人、絕世而獨立、一顧傾人城、再顧傾人國。」の部分が元ネタかと。ちなみにこれ、「傾城傾国」の故事成語の元ネタです。
意味は「北方に絶世の美女がいる。一度顧みれば人の城を傾け、二度顧みれば人の国を傾ける。この美人に溺れれば城も国も傾くことは明白だが、二人とない美人なので踏みとどまることなどできない」といった感じ。ちなみにこの歌でこのように褒められた李夫人は歌った李延年の妹に当たる人物で、この歌をきっかけに興味を持った前漢の第7代皇帝・武帝が側室に迎えました。なお、実際には国を傾ける前に若死にしたとのこと。(ちなみに反魂香の元ネタもこの人由来なので、相当な美人だったんだろうな…)

此の少年 生まれながらにして能有る者に非ず 敏にして以てこれを求めたる者なり
出典:第61回「魔家四将 7 -天化再登場!!!-」
『論語』述而第七より「我非生而知之者、好古、敏以求之者也。」が元ネタ?
意味は「私は生まれながらにして物事を知っている者ではない。いにしえを愛し、あらゆる機会を逃さずに追い求める者である」。つまりあおり文的には「この少年は生まれながらに能力に優れた者ではない。あらゆる機会を逃さずに力を追い求める者である」って感じ。

太公望、朝歌を圧し城 摧けんと欲す 我、美酒を傾け壮麗なる争覇を唯夢想す…
出典:第82回「太子の選択・その6~趙公明の荷造り」
前半部分の元ネタは「黑雲壓城城欲摧、甲光向日金鱗開。」(李賀『雁門太守行』)?
元ネタの漢詩は異民族の襲撃を受けた中国北部・雁門関を守っていた将軍が決死の覚悟で奮戦した状況を詠ったもの。漢詩そのものは「真っ黒い雲のような異民族が城を押さえつけるようにして襲いかかってきており、城は押しつぶされそうだ。月の光に反射して鎧は金の鱗のきらめきを見せる。(中略)形勢は悪いが我々を厚くもてなしてくれた恩に報いるため、剣をとって王のために死にましょう。」という内容で、全文見るとかなり艶やかな描写。まぁフジリュー版趙公明が誰かの忠誠の為に命を散らすことはないのでしょうが…(原典・安能版だと聞仲の友情のために死んでる)

其の濃艶、獣を率いて国を食ましむるものなり――
出典:第150回「太上老君をめぐる冒険 2 -桃源郷-」
『孟子』 梁惠王上より、「庖有肥肉,廄有肥馬,民有饑色,野有餓莩,此率獸而食人也。」の部分が元ネタ?
内容は「王の元には十分な食料、肥えた馬がいるが、民は飢え、野には行き倒れが溢れている、これはまさに獣を率いて人を食べさせているようなものである。民の父母とも言える立場の人間がそのようなことをして、それが果たして王の資格はあるのか?」といった感じ。テンプテーションで民を飢えさせるどころか操った妲己はまさに国を食ってる感じがありますね…。

大道は汎として其れ左右すべし――
出典:第154回「太上老君をめぐる冒険 6 -睡眠-」
『老子』仁成 三十四章より「大道汎兮、其可左右。」が元ネタ。
三十四章では「道(タオ)」の在り方を説いて人の在り方を示しており、章の全体的な訳としては「偉大なる道(タオ)は水が氾濫するように、右へも左へも広がっていく。万物は全てこの道から生じているが、道自身がそれを誇ったりすることはない。聖人もこの道と同様、黙々と万民のために尽くすからこそ偉大な存在となる」といった感じ。

少年 窮まりても堅なり! 其の志 磨すれど磷ろがず!!
出典:第170回:「黄家の血 1 -天化のゼルプスト-」
後半部分の元ネタは『論語』陽貨第十七より、「不日堅乎、磨而不磷。」か?
孔子が謀反を企てている人物に招かれて以降としたところを弟子に咎められた時のセリフ(言い訳)で、内容は「いくら磨けどもすり減ることのない堅いもの、いくら染めても黒ずむことのない白いものもあると言うだろう。確かに、自ら率先して悪事を行うような者の所には君子は行かない、とは言ったが、行ったからと言って同じように悪事に染まるようなことにはならない」という感じ。
ちなみに中国のことわざとして上の話を由来に「磨而不磷、涅而不缁」(意志が強い人は環境には左右されない)という表現があるので、(今まで全部出典違うのに論語だけダブってる点、元ネタ部分以外にも大きな意味を持たせがちなあおり文の中で、これはちょっと弱い)むしろ元ネタとしてはこっちの方が大きいかもしれない。

同気相求め 同憂相救う――
出典:第186回「鏡 1」
『易経(周易)』乾 文言伝より「同聲相應、同氣相求」が元ネタ。
「意見を同じくする者は応じあい、気質を同じくするものは求め合う。それは水が流れるところが潤い、火が燃えるところが乾燥し、雲が龍に従い、虎が風に従うのと同じであり、聖人が生まれれば万物が注目するのと同じ。」という内容のお話なので、あおり文の意味としては「気質を同じくするものは求め合い、憂いを同じくするものは互いを救う」といった感じ?
ただ、このあおり文の憎いところは出典である『易経』の作者が(伝説上)伏羲とされている点であるということ…第179回で蛇身になったりして嫌らしい伏線張ってた(伏羲は人頭蛇身の神とされている)のに加えて、ここでも伏線張ってたとは…

命を知る者は惑わず! 太公望は……
出典:第188回「鏡 3」
「知命者不惑。」(劉向『説苑』)が元ネタ?
意味は「自らの天命を知る者は迷わない」だと思いますが、訳本当たっても該当部分だけなぜか訳を飛ばされているので、どういう話の展開でこれが出てきたのかちょっとよくわかってません…。

情、是くの若く久長なれど――我が億年の志、未だ涯有らず――
出典:第192回「歴史の道標十八 -女媧・大爆笑-」
前半部分は「两情若是久长时、又岂在朝朝暮暮。」(秦観『鵲橋仙』)が元ネタ?
七夕の情景を詠いながら愛の在り方を説く内容で、元ネタ部分前後の意味は「彦星と織姫の年に一度の逢瀬は人の世界の無数の愛に勝る。遠く離れて愛し合う二人の愛情がもし本物ならば、私達も毎朝毎夕出会うことにこだわる必要はない。」という感じ。
ぶっちゃけ元ネタの提案としては無理矢理だと思いますが、元ネタが星をネタにした男女のカップルの話だったので取り上げたかっただけとも言う。

愁うる莫かれ――天下誰人か彼を識らざらん――
出典:第204回「あとしまつ 下」
高適の漢詩『別董大』が元ネタ。
元ネタ部分である「莫愁前路無知己、天下誰人不識君。」の意味は「君の行く先に知己がいないなんて心配は無用だ、天下の誰とて君を知らない者などいないのだから。」

参考HP・文献
  • 藤崎竜データサイト sheepclouds
  • 中国語版Wikisource
  • 新釈漢文大系 4 孟子/明治書院/1962年
  • 新釈漢文大系 7 老子・荘子 上/明治書院/1966年
  • 新釈漢文大系 63 易経 上
  • 新釈漢文大系 19 唐詩選/明治書院/1964年
  • 新釈漢文大系 104 白氏文集 八/明治書院/2006年
  • 中国古典文学大系 3 論語・孟子・荀子・礼記(抄)/平凡社/1970年
  • 中国古典文学大系 13 漢書・後漢書・三国志列伝選/平凡社/1968年
  • 李長吉歌詩集 上/岩波文庫/1961年
  • 中国の名詩101/井波律子・編/新書館/2005年

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